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広島地方裁判所 昭和40年(わ)745号 判決 1966年2月01日

被告人 池田吉臣

主文

被告人を懲役四年および拘留五日に処する。

未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一昭和四〇年一〇月二五日午後七時ころ、広島市大手町二丁目一二番丸脇商会内の自室において、同じ長屋に住んでいる白石一(当時四七年位)と飲酒して雑談中、同人から「あんまり飲むんじやない」と注意を受けたので、同人に対し「おやじさんもあまり飲んじやいけない」と節酒するよう忠告したところ、かえつて同人から「お前なんかにそういわれることはない」といわれたうえ、手拳で二、三回頭を殴られたことに立腹し、やにわに右脇にあつた四合入焼酎空びん(証第一号)で同人の頭頂部を一回殴打して、同人に脳硬膜外出血の傷害を与え、よつて同年一一月二三日午後四時四〇分ころ、広島市霞町広島大学医学部付属病院において、右出血による脳圧迫により、同人を死亡するに至らせ、

第二同年一〇月一八日午後四時ころ、アルコールの影響により正常な行為ができない状態で、広島市基町所在の公共の場所である広島証券バスセンター営業所において、執務中の従業員や来客に対し「おどりやあ、知りもせぬのに知つたげにするな」などと大声でわめき、かつ相手かまわず肩に触れ、営業カウンターに坐るなどし、もつて著るしく粗野かつ乱暴な言動をして公衆に迷惑をかけ

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(再犯となる前科)

被告人は、昭和三七年七月一一日広島地方裁判所で詐欺罪により懲役八月(裁定未決三〇日、法定未決一五日算入)に処せられ、昭和三八年二月八日右刑の執行を受け終ったものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書によつて認められる。

(法令の適用)

被告人の判示第一の行為は刑法第二〇五条第一項に、判示第二の行為は酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律第四条第一項、罰金等臨時措置法第二条第二号に該当するところ、判示第一の罪については、前記の前科があるので刑法第五六条第一項、第五七条により、同法第一四条の制限内で再犯の加重をし、なお判示第二の罪については、所定刑中拘留別を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第五三条第一項により、判示第一の罪の有期懲役刑に判示第二の罪の拘留別を併科することとし、各所定刑期の範囲内で、被告人を懲役四年および拘留五日に処し、未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入することとする。

なお、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人に負担させない。

(被告人の主張に対する判断)

被告人は、当公判廷において、判示第二の行為については、当時酒に酔つていたため全く記憶がない旨述べており、これは法律上心神喪失の主張と解さられるので、この点について、判断するに、判示第二の事実に関する前掲各証拠および被告人の当公判廷における供述によつて認められる被告人の犯行当時の営業所における挙動およびその前後の行動、それに被告人の平素の生活態度、飲酒量等を綜合すれば、被告人は、当時洒により相当酩酊しており、是非善悪の弁別能力を著るしく減退していて、いわゆる心神耗弱の状態にあつたが、その弁別能力も、またその能力に応じて行動を制御する能力も全く欠いていたものではないと認められるから、被告人の右主張は採用できない。

なお、右認定のとおり被告人は判示第二の行為当時心神耗弱の状態にあつたけれども、これは飲酒の結果惹起したものであり、しかも病的酩酊によるものとは認められないから、酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律違反の本件については、この法律の立法の経緯並びに全規定の趣旨に鑑みるときは心神耗弱者の行為につきその刑を減軽する旨の刑法第三九条第二項の規定は当然その適用を排除すべきものと解するを相当と考える。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小竹正 山中孝茂 角田進)

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